子どもが歌いやすいのは覚えやすい歌、つまり、単純な歌詞とメロディでできた歌です。歌詞は、乳幼児が日頃から使う言葉や、ドキドキ、ワンワン、ペコペコのようなオノマトペや、ゴーゴー、ヤッホー、オーのような掛け声的な単語が使われていること、3つの単語をつなげた「3語文」までであることがポイントです。
また、メロディはひとつのフレーズが8拍まで構成されていてあわただしくないもの、そして同じフレーズが1曲の中に2回以上含まれている曲が歌いやすいと言えます。例として「かえるのがっしょう」などがあります。
一般童謡等で歌いやすい歌は「チューリップ」、「ちょうちょ」、「キラキラ星」、「先生とおともだち」、「カレーライスの歌」、「まつぼっくり」、「雪」、「ひげじいさん」、「ガタガタバス(フィンランドのあそび歌)」、「列車ははしる(アメリカ民謡)」、「あたま、かた、ひざ、あし(イギリスのあそび歌)」などがおすすめです。
数年前に、家庭環境の調査をしましたが大きな影響はないようです。ただ、事例が少ないのですが、歌好きのお子さんの保護者は「お風呂に入ったとき、子どもと一緒に歌っている」と仰っていました。リラックスできて、声が響くお風呂での歌唱は、子どもが歌好きになるポイントなのかもしれません。子どもたちは歌で遊び、楽しみながら歌うことで音楽表現を育んでいきます。保育者には、子どもの歌唱発達にあわせた支援が求められます。
1歳半から3歳までの子どもの歌唱発達を調べたところ、保育者が歌ったとき、動き・歌詞・メロディのそれぞれにリアクションがありました。
動きについては、調査を開始した1歳6か月で、すでに音楽に合わせて身体全体を動かしていました。音楽に合わせて身体を動かすことで、楽曲全体の流れを把握しているようです。
歌詞については、1歳11か月頃からはオノマトペを、2歳1か月頃には歌詞の後半(「まいごのまいごのこねこちゃん」*の「こねこちゃん」の部分)を歌えるようになります。歌詞の単語の最後(「だれですかー」の「かー」の部分)を歌うようになります。子どもは、歌の初めから歌わずに、歌の途中から歌うのです。
メロディについては、2歳5か月頃になると、保育者の歌に合わせて口を小さく動かすことがあり、歌詞を歌わずにメロディを口ずさむことがあります。動きの発達・歌詞を歌う発達・メロディを歌う発達が合わさって、2歳7か月頃には、1曲を歌えるようになります(歌唱発達には個人差があり、2歳前半で1曲を歌えるお子さんもおられます)。
*「いぬのおまわりさん」より(作詞:佐藤義美、作曲:大中 恩)
一番は、大人が子どもの歌を褒め、自信を持たせることではないでしょうか。また、ご家庭でも保護者がハミングで歌うだけでも、お子さんが歌唱に興味や関心をもてるようになるでしょう。興味を持ったタイミングで、先ほどお話ししたような「子どもにも歌いやすい歌」を提供することも大切です。
子どもは大人に比べて音域(声域)が狭いため、歌の中には、子どもには歌いづらいものがあります。ご家庭でも、「子どもに聞いてもらう歌」と「子どもと一緒に歌う歌」の整理をすると良いと思います。
「子どもと一緒に歌う歌」は、子どもの音域でも無理せず歌える歌です。保護者の方もリラックスできる時間に、「一緒に歌えたら楽しいだろうな」という気持ちでお子さんを誘ってみましょう。また、ごはんの歌、おかたづけの歌、おやすみの歌など、生活の歌をオリジナルでつくって歌うのもおすすめです。
歌が苦手な保護者でも、今はSNSなどで世界中の歌に触れられます。気に入った歌を流すだけでも、子どもは関心を持ってくれるはずですよ。
頑張って練習する必要はありませんが、歌に聞き覚えがあると歌唱への抵抗感が薄れるので、上記で紹介した歌いやすい童謡を家庭で一緒に歌ったり、BGMで流したりするとよさそうです。
入園後、「知らない歌で歌えなかった」という場合も、曲名さえわかればネット検索できます。お子さんが気にいった歌であれば、何度もかけてあげてください。歌詞がわからなくても、ラララやハミングでかまいません。メロディを大切にしてください。
転んでしまった子どもが、保護者から励ましのわらべ唄を歌ってもらって元気になったり、ニンジンなど苦手な食材を食べるために自分で即興歌を作って鼓舞して食べられるようになった姿を見たときは、“歌のチカラ”を感じました。
その他にも、取り組んだことが思うように進まず落ち込んだり、先生に注意されて元気が出ないときなど、リズミカルな歌を先生や友達と歌っている間に、気分が晴れたように笑顔になる子どもの姿も印象的です。自分が歌いたいときに、歌いたい歌を歌う、また、身近な大人が子どものために歌ってあげることで、子どもたちが気持ちを立て直した場面を数多く見てきました。
歌には想像を超えるチカラがあります。「誰かに強制されて歌う」のではなく、「自分が歌いたいから歌う」シーンが、どんどん増えてほしいと思っています。