わらべうたの最古の記述は、平安時代後期にさかのぼります。12世紀、藤原長子(ふじわらのちょうし)が著した『讃岐典侍日記(さぬきのすけにっき)』の中で、幼い鳥羽帝が、「降れ、降れ、粉雪(こゆき)」と、あどけなく歌う様子が描写されています。この歌は、全国に分布する「雪やこんこん」と同系のわらべうたであると言われています。
わらべうたは口伝で伝わり、広がってきた歌で、多くはあそびをともないます。楽器の伴奏はありません。また、「ドレミファソラシド」でおなじみの西洋音階ではなく、「ソラドレミ」等といった日本音階で構成されています。2拍子、4拍子のものが圧倒的に多いですが、3拍子系も存在します。方言や、その時代特有の言い回しが入っているのも特徴ですね。
世界中、子どもがいればあそびがあり、あそびがあればわらべうたやその仲間があると考えてよいと思います。たとえば、英語圏の伝承童謡「マザーグース」は有名です。なかでも「ロンドン橋落ちた」は日本でも広く親しまれ、小学校の教科書にも掲載されています。
多くのわらべうたは、旋律とリズムがシンプルで、歌いやすい音域で構成されています。そのため、子どももすぐに覚えられ、歌ってあそべることが、時代を超えて愛されてきた理由と考えられます。
わらべうたには、その地域の言語や伝統的な音楽的諸要素がギュッと詰まっています。刺激が強くないので最初はつまらないと感じる方もいらっしゃると思いますが、私自身は、わらべうたそのものが美しく楽しいものだと感じます。今では、子どもたちが自発的に「わらべうたあそび」をする場が減っていますが、これまで受け継がれてきた宝物のようなわらべうたを、ぜひ次世代にも伝えていきたいですね。
わらべうたには、古語や方言が多用され、今では意味がとらえにくい歌詞もあります。子どもたちは歌詞がわからないなりに意味を想像し、言葉の響きそのものを楽しんでいるようです。
わらべうたが現代教育で注目された要因のひとつが、1960年代に日本で紹介されたコダーイの音楽教育です。ハンガリーの音楽教育学者であるコダーイは、「音楽教育は音楽能力だけではなく、子どもの多面的な能力を育てるためのものであり、音楽は全ての人のものである」と考えていました。コダーイの音楽教育では、わらべうたは子どもたちにとって最良の教材。日本でも、多くの教育機関や音楽レッスンで、日本のわらべうたを用いたコダーイの音楽教育が実践されています。
「わらべうたあそび」によって、自立的な歌唱能力、リズム感、音程感などが身に付きます。また音楽能力だけではなく、言語能力、社会性、自立心、人間関係能力など、子どもの力を伸ばす可能性があります。たとえば、歌うことで発声機能の発達はもちろん、日常会話ではあまり使われない方言や昔の言葉といった多様な言葉に触れられます。低年齢の子どもは、身近な大人とあそぶことで情緒が安定すると言われていますし、友だち同士であそべるようになってからは、「わらべうたあそび」の中で生じた友だちとのいざこざや、自身の葛藤をあそびの中で上手く解決していく様子が見受けられます。あそびを通じて友だちや身近な大人との信頼関係を育んでいけるのも、「わらべうたあそび」の魅力だと感じます。
「子どもの発育のために」という義務感からではなく、お子さんと一緒に楽しむことが一番のコツです。CDや動画でわらべうたを流すのではなく、ぜひ、ご自身で歌ってみてください! 歌の上手い下手は関係ありません。ご家族が歌ってくれる歌こそが、子どもにとって一番うれしく、心に届きやすいはず。「わらべうたあそび」の時間が、親子にとって大切なひとときになってほしいと願っています。