DAM年間ランキングの2023年版が発表されました。最大のトピックは、Vaundy『怪獣の花唄』が首位を獲得したことでしょう。昨年度の34位から一気に首位へ。
Vaundyは500位以内に計8曲ランクインしている中、『怪獣の花唄』が突出しています(次は198位『踊り子』)。2020年のリリースながら、やはり昨年のNHK紅白歌合戦の影響が大きかったのでしょう。パーカー姿で観客をあおる姿に驚いてから、もうすぐ1年になります。
彼の音楽に対する印象をストレートに言えば――「ロック」。
「Jポップ」という言葉が広がって久しいのですが、「ポップ」という大きな傘の下、熱くて激しい「ロック」が少なくなっていったのが平成時代でした。
そんな中、特に『怪獣の花唄』は、久々に熱くて激しい「ロック」を聴く快感を再認識させてくれました。カラオケでこの曲を歌った人はおそらく、昨年紅白のVaundyのように、熱く激しく、動き回りながら歌ったのでは?
『怪獣の花唄』『ドライフラワー』に続く3位は、今年リリースのYOASOBI『アイドル』です。今年の音楽シーンを代表する曲と言っても過言ではありません。個人的には、この曲が1位になるかもと予想していました。話題を呼んだアニメ番組の主題歌で、世界的にも評価された1曲。
よく歌われた要因は「難曲制覇欲求」にあると思います。そもそもYOASOBIの曲は、メロディが細かく機械的に動くので、歌うのがとにかく難しいのですが、今回は、その中でもひときわ高度で複雑で、「これぞ難曲!」という感じです。
しかし、難曲に奮起した「歌うま層」が「この曲、絶対に制覇してやんよ!」と盛り上がり、練習がてらに何度も何度も歌ったのではないでしょうか。
つまり、Official髭男dismやKing Gnuの曲、ひいては演歌界を代表する難曲=石川さゆり『天城越え』(78位)と同じような「難曲制覇欲求」を生んだ結果、3位になったという感じがするのです。
ですが、個人的にはもっとも驚いたのは、今年の7位です。昨年の33位から大きくジャンプアップした、ポルノグラフィティ『サウダージ』。リリースはなんと2000年。
今年7月、『今年上半期のカラオケトレンドは「シン・90年代ソング」?』という記事を書きました。指摘したのは、昭和歌謡という「過去」までいかない、「近過去」が歌われるトレンドです
今年のランキング上位では、以下がそんな「近過去ソング」です。
6位:高橋洋子『残酷な天使のテーゼ』(1995年リリース)
12位:MONGOL800『小さな恋のうた』(2001年)
13位:スピッツ『チェリー』(1996年)
14位:椎名林檎『丸の内サディスティック』(1999年)
19位:WANDS『世界が終るまでは…』(1994年)
注目すべきは『サウダージ』に加えて『小さな恋のうた』と、「近過去ソング」のトレンドが2000~2009年=「00年代」の曲、つまり「シン・00年代ソング」に来ていることでしょう。
『サウダージ』について、あらためて音楽的に分析しますと、音粋は非常に狭いのですが、リズムがとても複雑で面白い。だからある種、ゲーム「太鼓の達人」をクリアするような楽しみを求めて、歌われていると思います。また若者が、「近過去」に青春時代を過ごしたお父さん・お母さんと一緒に歌うというシーンも大いにあったでしょう。
というわけで、カラオケシーンに吹き荒れるかもしれない「00年代ブーム」、これからも目が離せません。
最後に。今回は地区別のランキングも分析してみました。他と比べてもっとも特徴的だった地区は、沖縄でした。全国ランキングではベスト10に入っていない曲が、なんと3曲もベスト10に入っているのです。
4位:BEGIN『三線の花』(全国では234位)
5位:中島みゆき『糸』(同22位)
6位:MONGOL800『小さな恋のうた』(同12位)
沖縄出身のBEGINとMONGOL800が地元愛で歌われているのが分かるランキングなのですが、特に、全国では234位のBEGIN『三線の花』が何と4位に入っているのが驚きです。
あらためて歌詞を読んで、これは沖縄で深く長く愛される曲だろうと思いました。加えて、今年も大活躍、日本シリーズ(第2戦)でも快投を見せたオリックス・バファローズの宮城大弥(沖縄県出身)が登場曲に使った影響もあったかも。
あっ、『三線の花』は2006年リリース。ということは、この曲も「シン・90年代ソング」なのでした。
――というわけで、早いもので今年ももう終わり。来年はどんな歌が歌われるのでしょう。どんなトレンドが生まれるのでしょう。楽しみです。