採点開発者突撃インタビュー!Vol.1 採点ゲーム誕生編【後編】
今やカラオケに欠かせないお楽しみ機能として定着している「採点ゲーム」。
DAMから初めて採点ゲームがリリースされたのは1990年代。採点ゲームの誕生から、DAMを代表するサービスとなった「精密採点」の初代誕生までの軌跡や、今だから話せる開発秘話を、採点ゲームの企画・開発を手掛ける橘 聡氏と、精密採点Ai開発チーム所属の矢吹 豪氏に大いに語ってもらった。(前後編の後編。前編を読む)
プロフィール
橘 聡
矢吹 豪
“歌を上達させてモテたい”の思惑から大ヒット作が誕生!
——2000年になってリリースされたのが『スペースカラオケオーディション』ですね。
矢吹:そうですね。この2000年のリリースのタイミングから、採点ゲームのプログラムがカラオケ本体のハードディスクに集約されました。実は1998年まではカラオケ本体だけでは採点ができなくて、オプション機器をつなげる必要があったんです。
橘:営業担当からすれば、集約されて本体だけになったというのは一つの革命ですよね。実際、この機種は爆発的に売れました。これまでは機械の設置や配線が大変でしたし、時間もかかっていましたから。
——なるほど。2000年の段階では、何か採点方法でも大きな変化はあったのでしょうか?
橘:新しい採点方法については、2000年には企画は出ていたと思うのですが、スペースカラオケオーディションには間に合わなくて。その企画を活かして、2002年に歌の練習に特化した企画で『Theうたれん』をリリースしたのですが、これがDAMの採点ゲームのターニングポイントになっています。Theうたれんでは採点エンジンもバージョンアップしていて、これが初代精密採点のエンジンの前身になっています。
私もそこそこ歌は上手だと思っていたのですが、90点以上がなかなか出せなくて。録音して聞き直すと確かに所々ズレているんですよ。だから、自分が歌を上達させたくてつくったというのもありますね。もっと言えば、モテたいからつくった(笑)
矢吹:わかりやすい(笑)開発動機は、歌が上手くなってモテたいから(笑)
橘:そんな考えもあって、だんだん私も欲が出てきて、採点性能を上げていくアイデアをヤマハさんと出していったんです。ヤマハさんも先を読んで、事前に音程評価の精度を上げる作業を丹念にしてくれていました。
——そう聞くと、確かに精密採点の土台が作られていっているイメージがありますね。
矢吹:Theうたれんは企画的なインパクトもすごくありましたね。間違っていると歌詞テロップの上に×印が出たり、上のバーが赤くなってガタガタ揺れたり。間違った部分は早戻しをして歌い直しができるのですが、そこできれいに歌えればちゃんと100点が出るんですよ。これが新鮮で。Theうたれんは本当に歌を上達させたい人向けで、ユーザーからもかなり人気がありました。
いよいよ初代精密採点が登場! ビブラートをどう世間に伝えるかが課題
——2003年にいよいよ初代の『精密採点』がリリースされるわけですが、開発に至った背景を教えてください。
橘:Theうたれんは練習に特化していますが、早戻しをすると1人の歌う時間がどうしても長くなってしまう。『普通のカラオケの楽しみ方』と『歌を上達させたい』ということの親和性を高く持たせるためにはどうしたらいいのか、考えて行き着いたのが『精密採点』だったんです。この時は採点軸を『音程・しゃくり・ビブラート』にしています。
——しゃくりとビブラートはこれまでなかったですよね。しゃくりというのは、どういったものなのでしょう?
橘:実は、しゃくりは音程を探しながら歌う、あまりよくない歌い方とも言われていて、一部では悪いイメージもあったんです。ただ、しゃくりがあるとなめらかな歌い方に聴こえて、機械的な歌い方よりも上手な印象があった。それでしゃくりを採用しました。
ただ、しゃくりよりも世の中的にインパクトがあったのはビブラートですね。当時ビブラートは世間的にはあまり知られておらず、いきなりビブラートが何秒ですと表示されても“何これ?”という感じになるだろうと思っていました。
なので、ビブラートをどうやって伝えるのか、たどり着いたのが『ビブラートタイプ』だったんです。ビブラートを複数のタイプに分類して、波線グラフで表示する。聞いた記憶とグラフのイメージが合うので、ユーザーにもビブラートがどういうものか伝わってメジャーになりました。
矢吹:ビブラートがリアルタイムで表示されるのも驚きましたし、自分のビブラートタイプがわかるのは発見でした。シンプルな面白さがありましたね。
橘:この頃からカラオケ自体のクオリティもあがっています。デンモク(電子目次本)が登場したり本人映像が充実したり、ログイン機能を使えば歌った日付や点数を記録に残せますし、店舗によっては印刷して持って帰ることもできました。1回歌っておしまいではなく、次回につなげることも意識していましたね。
——記録が残れば、その記録を抜きたいって思えますよね。この時も採点エンジンをアップデートしているのでしょうか?
橘:していますね。ヤマハさんとブレストでアイデアや要望を出し合って、かなり広い範囲で考えたものを絞り込んで精度を上げていきました。『歌の上手さって何だろう?』って、私たちもわからないままつくっているんですよ。
精密採点の時もそうで、ビブラートやしゃくりを検出したところで、それをどう点数にしていくのか。上手な歌い方とそうじゃない歌い方を録音して、それに見合った点数が出ているのか見て、チューニングをする、これを手探り状態で繰り返していましたね。
——芸術に点数をつけること、というのとリンクしますね。ちなみに、精密採点という名前はどなたがつけられたのですか?
橘:開発メンバーの誰かが考えたのだと思います。「精密に作っている精密採点だよね」っていう感じで(笑)ただ、ネーミングは何案かあって、精密採点は実は候補としてはメンバーの中では最下位でした。採用されることはないと思っていたのですが、当時の社長が精密採点にしよう、と。開発メンバーは驚きでしたが、第三者の意見って一番大事なんですよね。
——名前自体がわかりやすいですし、自分の歌をより正確に分析してくれそうな感じがありますよね。精密採点をリリースした時の反響はいかがでしたか?
橘:すごく好評でしたね。「高得点を取るためにはどうしたらいいんですか?」という問い合わせが多く、なかには「この曲でどうしても90点にいかない」といった声もありました。
矢吹:今では当たり前のように登場していますけど、初代の精密採点がリリースされてから、テレビなどメディアに登場する頻度や回数もすごく多くなりましたね。
橘:この頃から若い世代からの声もよく届くようになりましたね。電車の中で学生さんが「昨日、精密採点で何点出た」とか、そういう会話をしているのを聞いたりしました。SNSが登場する以前の話ですね。
——それは、相当、世間的に浸透したといえそうですね。
橘:ほかにも学校の研究や卒論の題材にするということで、学生さんの質問に丁寧に回答する機会があったり、社会科見学で第一興商を訪問してくれたこともありましたね。珍しいパターンでいくと、歌手デビューを控えた方が「事務所から社会勉強してきなさいと言われて」と来社されたこともありました(笑)
——なるほど。そうやって反響がリアルな出会いにまでつながったわけですね。そこから00年代~10年代を通じて、さらなる発展を遂げていくわけですが…というところで、すみません、時間が来てしまいました。タイムアップです(笑)
矢吹:なんとか10年分の歴史は語ることができました。でも、ここからが本当に面白いところなんですよ(笑)
橘:また時間を取ってゆっくり語りましょう(笑)
——お言葉に甘えて、次回は「精密採点Ⅱ」をテーマに突撃します!本日はどうもありがとうございました!
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