採点開発者突撃インタビュー!Vol.2 精密採点II編【前編】
カラオケを楽しみたい人から、歌唱の上達を目指す人まで、多くのユーザーに親しまれている採点ゲーム。
前回の採点開発者突撃インタビュー「採点ゲーム誕生編」では、採点ゲームの誕生から2003年リリースの初代「精密採点」誕生までの軌跡を、採点ゲームの企画・開発を手掛ける橘 聡氏と、精密採点Ai開発チーム所属の矢吹 豪氏に語ってもらった。
第2回となる今回は、『ビブラートの上手さ』や『見えるガイドメロディー』などの画期的なアイデアでさらなるヒットへ導いた『精密採点II』にフォーカスを当て、話を聞いた。(前後編の前編。後編を読む)
プロフィール
橘 聡
矢吹 豪
精密採点のゲーム的攻略対策として始まった精密採点II開発
──前回のインタビューで触れたように、2003年に初代の『精密採点』が誕生しました。そこから4年後となる2007年には、シリーズ続編となる『精密採点II』がリリースされます。開発に至るまでの背景を教えていただけますか?
橘:2003年に、初代の精密採点をリリースすると同時に、『ランキングバトル』がリリースされています。これは採点データを分析して、曲別の全国ランキングや、自分の今の順位がわかるというコンテンツで、参加者の中には、「ランキングバトルで高得点を出すためにはどう歌えばよいのか?」というのを研究している方も多くいました。これが『精密採点II』の開発につながってきます。
矢吹:ランキングバトルは点数と順位しか出ないので、何をどうしたら点数や順位が上がるのかがわらかないんですよね。でも、精密採点では、音程正確率や抑揚、リズムなど、自分の歌唱の特徴に気付くことができる。練習・研究のために精密採点で特訓して、ランキングバトルにチャレンジするという、行ったり来たりのプレイが目立ったんですね。
──ランキングバトルと精密採点には、密接な関係があったんですね。
橘:初代精密採点の採点項目にビブラートを加えていたのですが、極端な話、回数を多く入れてさえいれば、加点されてしまっていたんです。そうすると、あまり上手く聞こえない歌い方だったとしても、高得点が出てしまう。そんな感じで、精密採点をゲーム的に攻略していくような流れが強く出始めて、精密採点の盛り上がりを支えていた面もありました。
その一方で、本当に歌が上手な方が原曲通りのメロディーを歌っているのに、高得点が出せないということもあったんですね。メロディーを機械的に当てていく歌い方ではなく、なめらかに歌う歌い方や楽曲が好きという方は、なかなか高い点数が出なかった。本当は歌が上手なのに高い点数が出ないのは、ちょっと気分がよくないですよね。
歌の上手さを掘り下げるために、歌の上手な社員をアサイン
──周囲の人が聴いていても明らかに歌が上手なのに、なんで点数は低いの?という疑問は確かにありました。
橘:典型的な話として、テレビのカラオケ対決番組で精密採点が使われる場合でも、視聴者の方が納得のいかない結果が出ることもありました。例えば、その楽曲を歌っているアーティスト本人とタレントが同じ楽曲を歌って、アーティストの方が上手に聴こえるのに、タレントが勝ってしまうことがあったんですね。
それで改めて「歌が上手いというのはどういうことなのか」「歌唱のどこを検出できればいいのか」ということを、より深く考え始めるようになりました。第一興商には、この矢吹も含めて、ガイドボーカルを担当できる歌の上手な社員がいたので、3人ほどチームに入ってもらい、企画に参加してもらって、ヒヤリングや打ち合わせを重ねるということを始めたんです。
矢吹:僕自身、1ユーザーとして精密採点がすごく好きだったのですが、得点面については少し不満と言いますか、歌い方で点数が変わるのはズルいなと思っている部分はありました。僕はあえてノンビブラートで伸ばしていって、最後の方でビブラートをかけるという歌い方が好きだったのですが、ずっとビブラートをかけている人の方が、得点が高くなりやすいということに気が付いて。精密採点を作った人に物申したいっていうのはありましたね。それが橘だったんですが(笑)
橘:(笑)
矢吹:橘と初めて会話をした時に「ロングトーンのノンビブラートもいいですよ」って話をしたのを覚えています。精密採点IIには『ロングトーンの上手さ』という項目が追加されているのですが、それは僕が最初にやりたかったことですね。
──そうやって、実際に歌のことがわかっていき、歌が上手な人の意見をどんどん開発に反映させていったんですね。
橘:彼らの歌を聴いてみると、なんとなくわかっていたことでも、「ああ、こういう要素があるから、歌が上手く聴こえるんだ」って、改めて気づくことが多かったんですね。わからなくても「どういうこと?」って聞くと、矢吹がその場で実演してくれるので、理解が早かったですし、そもそもその作業自体が面白かった(笑)
プログラム開発の方のなかには、音楽や歌唱にはあまり詳しくない方もいましたが、実際に歌ってもらえば、口頭で説明するよりも理解しやすいですよね。それもあって、ロングトーンの上手さはすぐに開発項目に加えることができました。
こぶしとフォールを採点項目に追加!表現力の評価軸が充実
──そのように2007年に精密採点IIがリリースに至ったわけですが、2003年の初代精密採点リリースからは約4年と少し期間が空いていますね。
橘:精密採点IIの開発から、企画も含め、採点エンジンの開発に時間をかけていくようになりました。採点エンジンの開発をはじめたのは、確か2006年でしたね。
──精密採点の採点エンジンをベースに、それをブラッシュアップしていった感じでしょうか?
橘:そうですね。ただ、実は、こういった機能がほしいっていうのは、最初から明確だったわけではないんです。「この楽曲ではこの人の方が得点が高く、この人の方が低いけど、実は得点が低い人の方が歌唱としては上手なんです」といった例を、採点エンジンを共同開発してくれているヤマハさんにお渡しして、一緒に考えていきました。ヤマハさんの方でも、音程をもっと精緻に、細かく取らないといけないといったことを検討してくれていました。
ビブラートに関していうと、秒数が長ければ高い点数が付くというのは、やっぱり変なんですよね。ビブラートが最低1秒は必要といった条件はあるものの、秒数自体は無視して、上手さを評価するようになりました。
──精密採点IIではさらに『フォール』と『こぶし』が追加になっていますが、これはどういったものですか?
橘:『フォール』は、尾崎豊さんや長渕剛さんのような歌い方のイメージですね。フレーズの最後に本来の音程から低い音程に向かって、なめらかに下げていく歌い方で、歌詞や歌い手の個性に合わせた表現といったところでしょうか。
こぶしに関しては、はっきりとはわからない方が意外と多いかもしれませんね。簡単に言ってしまえば、こぶしは音程を短く1度上下させるだけ。ビブラートは音程を連続して複数回上下させる歌い方です。検出する際、こぶしなのかビブラートなのか、1度音が動いたあとしばらく待たなければならなくて。誤検出しないように開発するというのも、苦労したところですね。
矢吹:こぶしは演歌のイメージが強いと思うのですが、2000年に入り、R&Bの曲調のアーティストが出てくるなど、音を細かく動かす歌い回しが増えてきたんですね。90年代はわりとストレートな歌い方のアーティストが多かったのですが、2000年代は時代とこぶしがマッチしているところがありました。
橘:他にも検出したいものはたくさんあったのですが、採点項目として採用するのはなかなか難しいんですよね。検出できたものを絞っていき、こぶしとフォールは誤検出が少なかったので採用しました。
──なるほど。検出技術がどれだけ歌の上手さや表現に迫れるかという戦いがそこにあるわけですね。
採点開発者突撃インタビュー!Vol.2
精密採点II編【後編】につづく