採点開発者突撃インタビュー!Vol.3 精密採点DX編【前編】
カラオケを楽しみたい人から、歌唱の上達を目指す人まで、多くのユーザーに親しまれている採点ゲーム。
前回の採点開発者突撃インタビュー「精密採点Ⅱ編」では、『ビブラートの上手さ』や『見えるガイドメロディー』などの画期的なアイデアでさらなるヒットへ導いた『精密採点Ⅱ』について、採点ゲームの企画・開発を手掛ける橘 聡氏と、精密採点Ai開発チーム所属の矢吹 豪氏に語ってもらった。
第3回となる今回は、精密採点が成熟期を迎える2010年リリースの『精密採点DX(デラックス)』にフォーカスを当て、話を聞いた。(前後編の前編。後編を読む)
プロフィール
橘 聡
矢吹 豪
上手な歌唱を叶える『安定性』を採点項目に追加
──2007年に精密採点IIをリリースしたあと、精密採点DXの開発がスタートするわけですが、どういったことが大きなモチベーションとなっていたのでしょうか?
橘:ユーザーのみなさんに「カラオケで歌が上手になれますよ」という気づきを与えたいと思っていました。はじめから自分は下手だと諦めている方も多いのですが、徐々に上達できるということに気が付いてほしかったんです。
──歌が上達すれば、ますます歌うのが好きになりますね。
橘:そうなんです。それで、実際に歌が上手になるためにはどうしたらいいのか、というのがあって、その時に矢吹から教えられたのが『発声』だったんです。
当時私はボイストレーニングにも通っていて、そこで『発声時にお腹で支える』ということを知ったのですが、これをなんとか採点に反映できないかと突き詰めた結果、できた採点項目が『安定性』です。安定性は精密採点DXで初めて登場した採点項目なのですが、実際に歌唱サンプルを比べても、息の支えがあり、安定性のある歌唱サンプルは上手に聞こえるんですよね。
音程は原曲と異なるメロディーにアレンジしても上手に聞こえますが、仕組み的に音程がはずれているということで点数は下がってしまいます。なので、安定性という評価を加えて点数を持ち上げたいというのがありました。
──具体的に、安定性というのはどういったものなのでしょうか?
橘:安定性は、発声がまっすぐ聞こえるのか、震えて不安定に聞こえるのか、といったことです。息の出る量が一定かどうかということが大切で、スピードが速くなったり遅くなったり、強くなったり弱くなったりすると、音程が細かく震えるんですね。お腹で発声を支えるには筋力も必要になるのですが、そこが鍛えられると自然と発声も安定していきます。実はビブラートでも、音程が変化する部分で安定して聞こえるかどうかを検出しているんですよ。
矢吹:ビブラートなのか、それとも声の震えなのかという分岐点があって、腹式呼吸で正しく発声していれば、安定性が高くなっていきます。安定性という一言にまとめられていますが、そこにぶら下がっている検出項目は実はものすごくたくさんあるんです。
レーダーチャートと分析レポートの登場!詳細なアドバイスで歌が上達
──精密採点DXでは、歌唱力をグラフ化した『レーダーチャート』や歌唱の特徴がわかる『分析レポート』も新たに追加されていますね。
橘:分析レポートは『歌唱のよかったポイント』と『アドバイスがあればよりよくなるポイント』の2段で考えて組み立てています。例えば、ビブラートが上手じゃなかったとしても、他にいいところがあればそこを褒めますし、音程がバッチリでも、高音域がやや不安定であれば、もっと息を吸いましょうとアドバイスをすることもあります。
分析レポートを参考に「アドバイス通りにやってみたら上手くいった!」という話が、インターネットでもだんだんと出てくるようになって。ちゃんと伝わっているんだなと、すごく嬉しかったですね。
──アドバイスに沿って歌えば上達できる、まさに歌は上達するという気づきにつながりますね。
矢吹:これまで1ページにまとめていた結果画面も、初めて2ページ構成にしました。ユーザーによってどこまで知りたいのか、求めるものが違うと思いますので、1ページ目には総合得点や分析レポートを表示し、より詳しい結果は2ページ目で見てもらう流れになっています。
橘:抑揚やしゃくりなどを『表現力』として項目をまとめて、簡潔にしました。ビブラートも表現力じゃないのかと思うかもしれませんが、ビブラートは知名度も上がりましたし、精密採点DXではビブラートのタイプも増やしているので、そこはあえて独立させています。
——ビブラートタイプにはどういう種類があるんでしょうか?
橘:これまでビブラートタイプはノンビブラートも含めると10種類だったんですが、ビブラートしながら音程が上がっていく『上昇形』、ビブラートしながら音程が下がっていく『下型形』、振幅がだんだん大きくなっていく『拡張形』、振幅がだんだん小さくなっていく『縮小形』、振幅が大きくなったあと小さくなる『ひし形』の5種を新たに追加し、全部で15種類にしています。
──実際にそういうビブラートの方がいるということですか?
矢吹:そうですね。プロの歌手の方を分析するなかで、そういった歌い方もあるから必要だねということで増やしています。
的確な分析レポートのアドバイスの裏にある膨大な作業
──精密採点DXでは、採点エンジンの方もかなり改良しているのでしょうか?
橘:はい、採点エンジン自体にも大きく手を加えています。細かなバージョンアップはこれまでもしていましたが、より細かく歌唱をチェックできるようにチューニングも加えて、採点精度はすごく高くなりました。安定性を詳しく検出できるよう、音程を検出するタイミングも細かくしています。検出できる項目が増えたことで、分析レポートを実現することができました。
──歌唱へのアドバイスが欲しいという声は、以前からあったのでしょうか?
橘:ありましたね。総合得点で90点が出ているけど、もっと高い得点を出したい。けれど、例えばリズム感が若干悪いとか、音程だけが若干ズレているとか、どうしたらいいのかは人によってそれぞれ違うんですね。
矢吹:自分のよい点と改善点がわかれば練習に役立ちます。分析レポートはボーカルの先生が横にいる感じで、なかなかボイストレーニングまで行くのはハードルが高いという方も手軽に練習できます。
──なるほど。ただ、間違っているアドバイスをするわけにはいかないですし、世の中に提示するには、それなりのプレッシャーがあったのでは?
矢吹:そうですね。アドバイスが的外れだったら、一気に信頼がなくなりますからね。
橘:分析レポートはいろいろなケースや歌う人を想像しながら、たくさんの条件と組み合わせを作り、それに合うコメントの雛形をひたすらつくっていきました。
例えば、演歌を歌われる方は音程が多少悪くても抑揚があって、ビブラートが深くて、1番高音のところでは綺麗に発声できている…といった感じですね。コメントは数百種類くらいあるんですが、そういったことが実現できたのは、採点エンジンの性能が上がったからです。
──コメントの雛形づくりは、かなり大変な作業だったのでは?
橘:すごく大変でしたね。雛形を作るのに私の妻にも協力してもらって。私がこういう歌い方の人というのを説明して、想像力と語彙力のある妻がコメントの雛形を書くという作業を長い時間をかけて行いました。
その雛形をたたき台にして矢吹たちにも見てもらいながら、分析レポートとして適切な言葉に変換したり、先生のような言い方に変えたり、とにかくひたすら作業していました。
矢吹:2008年12月に『DAM★とも』というカラオケ歌唱を録音して公開できるサービスが始まったのですが、精密採点DXの開発に反映するためにユーザーさんの歌唱を聴きまくりましたね。そこから多くのことに気づき、たくさん学ばせてもらって、その人の歌唱にどんな感想を持ったかなどを蓄積していって、分析レポートにも活かしました。実は、DAM★ともの開発も私が担当したので、DAM★ともサービスと精密採点シリーズを発展させる上ではとても恵まれた環境の中で研究開発を進めることができました。
橘:総合得点の計算には反映できない、つまり歌の上手さの評価には利用できないけれど、特徴は検出できているというものもたくさんあるので、それらはコメントに活かしています。また、評価につながるものでいえば、端末には2つのマイク入力がありますよね。実は、それぞれのマイクごとで別々に採点しているんです。1人で歌っている場合でも、デュエットでハモっている場合でも、正しい点数に近づけられるように努力しました。
矢吹:分析レポートでも「最高のデュエットです」とか「ハモりも抜群でした」といったコメントが出たりするんですよね。
──そういう仕組みを知っていないと、「えっ、機械でそこまでわかるの!?」って、びっくりしちゃいますね。
採点開発者突撃インタビュー!Vol.3
精密採点DX編【後編】につづく