採点開発者突撃インタビュー!Vol.4 精密採点DX-G編【前編】

カラオケを楽しみたい人から、歌唱の上達を目指す人まで、多くのユーザーに親しまれている採点ゲーム。前回の採点開発者突撃インタビュー「精密採点DX編」では、プロからも信頼されるほど採点が精密化され、分析レポートやレーダーチャートによってより直観的な評価が可能になった『精密採点DX(デラックス)』について、採点ゲームの企画・開発を手掛ける橘 聡氏と、精密採点Ai開発チーム所属の矢吹 豪氏に語ってもらった。
第4回となる今回は、『ボーナス点』が追加されて新たな盛り上がりを見せた、2015年リリースの『精密採点DX-G』にフォーカスを当て、話を聞いた。
(前後編の前編。後編を読む)
プロフィール
橘 聡
1995年のDAM公式リリースの初代採点ゲームから、最新の精密採点Aiまで、多くの採点ゲームおよび採点エンジンの企画・開発に携わる。カラオケ採点を牽引してきたパイオニア。特許出願件数ナンバーワン。

矢吹 豪
14歳からボイストレーニングを開始。音楽専門学校で音楽理論・ボイストレーニング理論を学び、独自の歌唱指導法を確立。ボイストレーナーとしてやっていこうと思った頃に「精密採点」に出会い、それまでの知識と経験を全て精密採点シリーズの開発に注ぎ込むことを決意。最新の精密採点Aiの開発も担当。

精密採点DXの成功からが本当の戦いの始まり

──2010年にリリースされ大成功を収めた精密採点DXですが、それがさらに進化して、2015年に『精密採点DX-G』がリリースされました。当時の状況をお伺いできますか?
橘:精密採点DXのリリースは成功という結果を残せましたが、喜んでいられたのも束の間でしたね。次の精密採点DX-Gのリリースまで5年あくのですが、ここから本当の戦いが始まった感じです。
矢吹:本当に束の間でしたよね。リリースして実際にお客さんに使っていただくことで、また課題が見つかっていく。2010年10月に精密採点DXをリリースしましたが、2011年に入る頃には課題がちらほらあがってくるし、自分たちでも気が付きますしね。
──実際に、どういった課題が見つかったんですか?
矢吹:音程を気にせず自由に歌う人の得点が伸び悩んでいるのが課題でした。プロの歌手の方でも自分の歌を歌う時、あえて原曲通りには歌わず、リズムをためたり、音程も外したりしてアレンジしますよね。そうすると音程正確率が70%台などと出てしまう。だけど、歌唱のなかにはビブラートや表現力など、プロの技が光っています。そこにきちんと得点をつけたいという思いがありました。
橘:例えば、「表現力を重視した得点をつけたい」「音程を意識した機械的な歌い方にも高得点を出したい」といったことや「ビブラート無しでどこまで高得点が出せるだろう」反対に「ビブラートがとにかく美しい歌い方にはそこに重きを置いて得点をつけたい」といった感じですね。
採点ゲーム開発当初から「歌唱という芸術に対して点数をつけている」という理念はみんな忘れていなくて。採点エンジンをつくるにあたって何を検出すれば正しい採点ができるのか、というのが常にありましたね。
——精密採点DXで一度ゴールにたどり着いたけど、その瞬間から新たなスタートが始まったように見えますね。
橘:そうですね。ただ、もともと知っていた課題もあったのですが、時間も限られていますし、それらをすべて開発で叶えられるわけではありません。精密採点DXで後回しにしていた課題や企画時にあった課題を改めてあげていき、そこに新しい発見や課題をあわせていった感じですね。
総合得点の計算方法を4つに増やし、歌い手の個性も得点化

──次々と課題が出てくるなかで、どういったアプローチをしていったのでしょうか?
橘:採点エンジンのチューニング作業に合わせて、総合得点を出すためのプログラム上の計算を1種類から4種類に増やしています。従来の計算方法に加え、『音程重視』『表現力重視』『ビブラート重視』の3つの計算を追加しました。それぞれの計算で4つの総合得点を出し、その中で1番高い総合得点を最終的な総合得点として結果画面に表示しています。
メロディーやタイミングを変えて歌うと音程正確率が下がってしまいますが、総合得点としては大きく下がりすぎないよう、他の要素の比重を上げているんですね。例えば、年配の方だと声が震えてしまい安定性が低くなりがちですが、ビブラートが上手ければ大きな減点にならないといったように、バランスを変えています。
これによって、楽曲を忠実に再現するのが得意な方、自分らしく表現しながら歌いたい方など、歌い手の個性をより正確に得点として反映できるようになりました。
──歌い手に合わせてより精密な得点を出してくれるのは、ユーザーにとっては嬉しいですよね。でも、実現するのにはかなり苦労もあったのでは?
橘:はい、ありました。1つのチューニングでも苦労はしますし、総合得点の計算方法をプラス3つでも十分多かったなとは思います。たくさんの歌唱サンプルを聴いていくのですが、そのなかでこの人の得点は高すぎる、逆にこの人は低すぎる、じゃあ何点にするべきなのかと目標も決めて、基準が間違えていないか何度もチェックしながらチューニングをしていきました。
矢吹:いろんな歌唱者がいるなかで、AさんとBさんならAさんの方が絶対に上手いのに、それが逆になってしまうなど、チューニングすることで崩れてしまうこともあります。そこが難しいところですね。
──ひとつ上手くいけば、ひとつ崩れてしまう。地道な作業を繰り返されたんですね。
橘:歌唱サンプルでも『神様サンプル』というのを複数決めていて、この人は絶対にこの点数のままで、他の人との順番も絶対に変えないんです。この人が上でこの人が下っていうのを決めて、そこは絶対の指標にしながらチューニングしていました。
ただ、総合得点の計算を増やせるっていうのは、気分としてはすごく解放されましたね。音程の重みっていうのをぐっと下げて、表現力の重みをぐっと上げるなど、思い切ったことができて、リミッターが外せたような感じでした。
ボーナス点の導入でより精密な採点に

──採点結果画面を見ると、精密採点DX-Gではボーナス点が登場していますよね。これには、どういった狙いがあったのでしょうか?
橘:ボーナス点は従来の計算で出した総合得点と、1番高い総合得点との差分で出しているんですね。ボーナスには『音程ボーナス』『表現力ボーナス』『ビブラートボーナス』があって、例えば音程重視の総合得点がもっとも高かった場合、その差分を音程ボーナスとして表示しています。反対に、従来の総合得点が1番高ければボーナス点は入らないんです。
矢吹:精密採点って正確なものなのに、ボーナスってどうなの? と賛否両論ではありましたけど、反響も大きかったですね。ボーナス点なしで100点なのか、ボーナス点ありで100点なのかにこだわっている方も多かったですが、100点が出たら、いずれにせよボーナス点なしの100点なんです。ベースの得点があり、そこにボーナスが加点されているとイメージされがちなのですが、そうではなく、4つの計算が動いて差分を出し、より正確な得点を出しています。
▲採点結果画面に総合得点と一緒にボーナス点を表示。ボーナス点によって歌唱がさらに精密に評価され、より正しい得点を出せるようになった

橘:採点が甘くなったと思われたりもしましたが、甘くしたわけではないんです。音程重視やビブラート重視など4種類の総合得点をすべて表示させることもできるのですが、ユーザーが混乱してしまうので、結果画面で表示する総合得点は1つだけと決めました。そして従来の総合得点との差分をボーナス点という演出に変えて見せています。
──ボーナス点はわかりやすく伝えるための表現であって、実力を正当に評価して得点を出している。おまけや運的なものではないわけですね。
矢吹:表現力は歌唱のなかでも大切な要素です。なので、採点結果画面でも表現力のエリアを大きく取るようにして、音程正確率と同じように、演奏区間ごとに時系列で得点を表示しています。表現力という項目自体にも明確な得点を出しています。
▲表現力も演奏区間ごとにグラフ化。より自分の歌唱がわかりやすく、分析しやすくなっている

採点開発者突撃インタビュー!Vol.4
精密採点DX-G編【後編】につづく